「帰る」は日常的によく使う言葉ですが、取引先や上司との会話、ビジネスメールでは相手との関係に合った敬語へ置き換える必要があります。
自分が会社を出るのか、相手が帰宅するのかによって使う表現は変わるため、敬語の種類だけでなく主語にも注意が必要です。
この記事では、「帰る」の尊敬語、丁寧語、謙譲語の違いを整理し、すぐに使えるメール例文や自然な言い換え表現を紹介します。
「帰る」の敬語表現一覧

それではまず、「帰る」の敬語表現と使い分けについて解説していきます。
尊敬語としての「お帰りになる」
相手や目上の人が帰る場合には、尊敬語である「お帰りになる」を使います。
「帰る」という動作をする人を高める表現であり、上司、顧客、取引先の担当者などに対して用いることができます。
たとえば、「部長はすでにお帰りになりました」「お気を付けてお帰りください」のように使います。
会話でもメールでも使いやすく、最も基本となる尊敬表現でしょう。
ただし、「お帰りになられる」は尊敬語の「お」と「なられる」が重なった形です。
敬意を強く示そうとする気持ちは伝わりますが、二重敬語と見なされることがあるため、「お帰りになる」に整えると自然です。
| 帰る人 | 基本表現 | 適した敬語 | 使用例 |
|---|---|---|---|
| 取引先の担当者 | 帰る | お帰りになる | 本日はお帰りになる時間をお伺いできますでしょうか。 |
| 上司 | 帰る | お帰りになる | 課長は先ほどお帰りになりました。 |
| お客様 | 帰る | お帰りになる | お足元にお気を付けてお帰りください。 |
| 自分 | 帰る | 帰ります | 本日はこれで帰ります。 |
| 自分 | 帰る | 退勤いたします | 本日はここで退勤いたします。 |
丁寧語としての「帰ります」
丁寧語は、言葉そのものを丁寧にする表現です。
「帰る」を丁寧語にすると、「帰ります」となります。
同僚や社内の関係者に自分の予定を伝える場面では、「本日は午後六時頃に帰ります」と伝えても問題ありません。
一方で、社外の相手へメールを送るときは、「帰ります」だけではやや口語的で、事情によってはそっけない印象になることもあります。
勤務終了を伝えるなら「退勤いたします」、訪問先から離れるなら「失礼いたします」など、状況に合う語へ置き換えるとよいでしょう。
謙譲語で考える際の注意点
「帰る」には、「伺う」や「参る」のように広く定着した単純な謙譲語があるわけではありません。
そのため、自分が帰ることをへりくだって表す場合には、目的に応じた別の言葉に言い換えることが大切です。
会社から退くなら「退勤いたします」、訪問先を離れるなら「失礼いたします」、自宅へ戻ることを伝えるなら「帰宅いたします」が候補になります。
「帰らせていただきます」は便利に思えますが、相手の許可を受けて帰るという意味合いがある表現です。
許可や配慮を求める事情がない場合は、必要以上に使わないほうが読み手に負担をかけません。
相手が帰るときは「お帰りになる」、自分が帰るときは「退勤いたします」や「失礼いたします」を軸に考えると、敬語の選択で迷いにくくなります。
相手別の使い分け基準
続いては、相手との関係に応じた「帰る」の敬語を確認していきます。
上司に対する表現
上司が先に会社を出たことを他の人へ伝える場合は、「部長はすでにお帰りになりました」が適切です。
上司へ自分の退勤を伝えるなら、「本日はこれで退勤いたします」「お先に失礼いたします」と表現します。
「先に帰ります」でも意味は通じますが、職場の慣習や相手との距離によっては、やや直接的に聞こえるかもしれません。
特に退勤時のあいさつでは、「お先に失礼いたします」と添えることで、周囲への配慮を伝えられます。
取引先に対する表現
取引先の担当者が訪問先から帰る場合には、「本日はお忙しい中、弊社までお越しいただきありがとうございました。どうぞお気を付けてお帰りください」と書けます。
相手の帰宅予定を尋ねるなら、「本日は何時頃お帰りになるご予定でしょうか」とすると、柔らかい聞き方になります。
ただし、帰宅時間は私的な情報でもあります。
業務上の必要がない限り、相手の行動予定を詳しく尋ねすぎない配慮も必要です。
お客様に対する表現
来店したお客様を見送る場面では、「本日はご来店いただき、ありがとうございました。お気を付けてお帰りください」が自然です。
悪天候や夜間であれば、「足元が滑りやすくなっておりますので、どうぞお気を付けてお帰りください」と一言加えてもよいでしょう。
「お帰りください」は、相手に帰宅を命じる言葉ではなく、相手を気遣って送り出す定型表現として使われます。
表情や声の調子も含めて、温かく伝えることが重要です。
上司への例文
本日はこれで退勤いたします。
お先に失礼いたします。
ビジネスメールでの使用場面
続いては、ビジネスメールで「帰る」を伝える際の考え方を確認していきます。
自分の退勤を連絡する場合
業務の進捗や緊急連絡先を共有するために退勤を報告するなら、「本日は午後六時をもって退勤いたします」と書けます。
単に「帰ります」とするよりも、業務の区切りが明確に伝わる表現です。
対応が翌営業日になる場合は、「ご連絡いただいた件につきましては、明日午前中に確認のうえ対応いたします」と補足すると、相手も安心できます。
退勤後に連絡を受けられない場合には、その旨を簡潔に案内することも大切でしょう。
訪問先から退出する場合
取引先を訪問したあとに送るお礼メールでは、「先ほどはお時間を頂戴し、誠にありがとうございました。本日はこれにて失礼いたします」と表現できます。
この場面では、帰宅することよりも相手先を辞去することが中心です。
そのため、「帰宅いたします」よりも「失礼いたします」や「退出いたします」のほうが文脈に合います。
訪問後のメールでは、面談内容や次の対応予定も一緒に記載すると、連絡の目的が明確になります。
相手の帰宅を気遣う場合
商談や会食のあとには、「本日は誠にありがとうございました。お気を付けてお帰りください」と締めくくることがあります。
遠方から来ている相手や、交通機関の乱れが予想される日には、「お帰りの際はどうぞお気を付けください」とするのも自然です。
メールでは過度に長い見送りの言葉よりも、感謝と気遣いが端的に伝わる文面が好まれます。
メールでは、自分の行動を伝えるなら「退勤いたします」や「失礼いたします」を選び、相手への気遣いには「お気を付けてお帰りください」を使うと、要点が明快になります。
場面別のメール例文
続いては、すぐに応用できるメール例文を確認していきます。
退勤報告の例文
お疲れさまです。
本日の業務は完了しましたので、これにて退勤いたします。
お問い合わせいただいた資料につきましては、明日の午前中に確認し、ご連絡いたします。
何卒よろしくお願いいたします。
退勤報告では、単に帰ることだけでなく、未完了の業務や翌日の対応予定を添えると引き継ぎが円滑になります。
特にチームで仕事を進めている場合は、相手が次に判断しやすい情報を残すことが重要です。
訪問後のお礼メール例文
本日はご多忙のところ、お打ち合わせのお時間をいただき、誠にありがとうございました。
ご説明いただいた内容を踏まえ、見積書を作成のうえ、来週火曜日までにお送りいたします。
本日はこれにて失礼いたします。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
訪問後のメールでは、「帰ります」と書く必要は通常ありません。
面談が終わって退出することは文脈から伝わるため、感謝と次の行動を中心に構成すると実務的です。
来客へのお礼メール例文
本日は弊社までお越しいただき、誠にありがとうございました。
お打ち合わせの内容に基づき、追加資料を準備いたします。
お帰りの際は、どうぞお気を付けください。
今後ともよろしくお願いいたします。
相手がすでに帰宅している可能性が高いメールでは、「お気を付けてお帰りください」よりも「本日はお気を付けてお帰りになれましたでしょうか」と書きたくなる場合もあります。
ただし、相手の状況を確認する必要がなければ、簡潔なお礼に留めるほうが自然です。
「帰る」の言い換え表現
続いては、「帰る」の言い換え表現を場面ごとに確認していきます。
自分が職場を出る場合の言い換え
自分が勤務を終えるときは、「退勤いたします」が最も使いやすい表現です。
社内で周囲に声をかける際には、「お先に失礼いたします」も広く定着しています。
外出先から戻らずに業務を終える場合には、「直帰いたします」という言い方も可能です。
ただし、「直帰」は社内用語に近いため、社外の相手には事情を補足するか、「本日は外出先より失礼いたします」と言い換えると丁寧でしょう。
| 場面 | 言い換え表現 | 伝わる内容 | 例文 |
|---|---|---|---|
| 勤務終了 | 退勤いたします | 仕事を終えて職場を出る | 本日は午後五時半に退勤いたします。 |
| 同僚へのあいさつ | お先に失礼いたします | 周囲より先に退出する | 本日はお先に失礼いたします。 |
| 訪問先を出る | 失礼いたします | 面会を終えて退出する | それでは、本日はこれで失礼いたします。 |
| 外出先から帰宅する | 直帰いたします | 会社に戻らず業務を終える | 商談終了後は直帰いたします。 |
| 自宅へ戻る | 帰宅いたします | 自宅へ戻ることを明示する | 用件終了後、帰宅いたします。 |
相手が職場や自宅へ戻る場合の言い換え
相手が帰ることを表す場合には、「お帰りになる」が基本です。
会社から出ることに着目するなら、「ご退勤になる」と表現することもあります。
もっとも、「ご退勤になる」は職場内で使われる傾向があり、取引先に対しては「お帰りになる」のほうが幅広く使えます。
訪問先から去る意味では、「お引き取りになる」もありますが、相手を追い返すような印象につながるおそれがあります。
通常の見送りでは、「お帰りになる」または「お帰りください」を選ぶと安心です。
帰宅以外の意味を持つ表現
「帰る」には、自宅へ戻る以外にも、元の場所へ戻る、所属先へ戻るという意味があります。
たとえば、担当者が出張先から会社へ戻るなら、「会社へ戻られます」と表現できます。
担当部署へ戻る場合には、「部署へお戻りになりますか」と尋ねることもあるでしょう。
「戻る」は敬語の形を作りやすく、「お戻りになる」「戻られます」と表せます。
ただし、「帰る」と「戻る」では目的地の印象が異なります。
自宅や普段いる場所へ向かうなら「帰る」、一時的に離れていた場所へ行くなら「戻る」を選ぶと、文意が正確になります。
「帰る」を敬語にするときは、単語を機械的に置き換えるのではなく、退勤、退出、帰宅、帰社のどれを伝えたいのかを先に整理することが大切です。
誤用を避けるための注意点
続いては、「帰る」の敬語で起こりやすい誤用を確認していきます。
「帰らせていただきます」の多用
「帰らせていただきます」は、相手の許可や恩恵を受けて帰る場合に使える表現です。
たとえば、会議の途中で事情を説明し、了承を得て退出する場面では違和感がありません。
一方で、定時になったため退勤するだけの場合には、「退勤いたします」や「失礼いたします」で十分です。
「させていただく」を多用すると、かえって回りくどく聞こえることがあります。
相手に許可を求める状況かどうかを考え、必要なときだけ使いましょう。
二重敬語となる表現
「お帰りになられる」は、丁寧に見えても敬語が重なった表現です。
「お帰りになる」だけで、相手への敬意は十分に表せます。
同様に、「お帰りになられましたでしょうか」よりも、「お帰りになりましたでしょうか」または「ご帰宅されましたでしょうか」と整えると読みやすくなります。
敬語は長くすればよいわけではなく、正確で自然な形を選ぶことが信頼感につながります。
主語の取り違え
敬語では、誰が帰るのかを見失わないことが重要です。
自分の行動に「お帰りになります」を使うと、自分を高めることになり不適切です。
反対に、相手に対して「帰ります」とだけ書くと、敬意が不足する場合があります。
メールを送る前には、主語が自分なら謙譲表現や丁寧表現、相手なら尊敬表現になっているかを確認しましょう。
この基本を押さえるだけで、敬語の違和感の多くは防げます。
「帰る」の敬語のまとめ
「帰る」の尊敬語は「お帰りになる」であり、取引先、上司、お客様の行動を表す際に使います。
自分が帰る場合は、「帰ります」でも間違いではありませんが、ビジネスでは「退勤いたします」「失礼いたします」「帰宅いたします」など、場面に応じた表現が適しています。
相手を見送る際には、「お気を付けてお帰りください」が自然で、感謝や配慮も伝えられます。
敬語を選ぶときは、誰が帰るのか、どこからどこへ移動するのか、どのような関係の相手なのかを確認することが大切です。
主語と場面に合った言葉を選ぶことで、ビジネスメールも会話も、より丁寧で信頼される印象になるでしょう。