電磁気学において変位電流は、マクスウェルが導入した革新的な概念です。この概念により、電磁波の存在が理論的に予言され、現代の通信技術の基礎が築かれました。
本記事では、変位電流の意味と求め方をわかりやすく解説し、コンデンサでの振る舞いや磁場との関係について説明していきます。電磁気学における重要性や具体的な例題を通じて、理解を深めましょう。
それでは、変位電流について順を追って見ていきましょう。
変位電流とは何か
それではまず変位電流とは何かについて解説していきます。
変位電流の定義
変位電流とは、電場の時間変化によって生じる見かけ上の電流のことです。実際に電荷が移動するわけではありませんが、磁場を作る効果を持つため「電流」と呼ばれます。
通常の電流(伝導電流)は、導線の中を電荷が実際に移動することで生じます。一方、変位電流は電場が時間的に変化する場所に現れ、電荷の移動を伴わないという点で本質的に異なるのです。
変位電流の概念は、ジェームズ・クラーク・マクスウェルが1861年に導入しました。この概念により、電磁気学の方程式(マクスウェル方程式)が完成し、電磁波の存在が理論的に予言されたのです。
なぜ変位電流が必要か
変位電流の概念が導入された背景には、アンペールの法則の矛盾を解決するという目的がありました。
アンペールの法則は「電流の周りに磁場が生じる」ことを示しますが、コンデンサを含む交流回路では矛盾が生じます。コンデンサの極板間には電荷が流れませんが、回路全体としては電流が流れているように見えるのです。
【コンデンサでの矛盾】
・導線部分:伝導電流が流れる → 磁場が生じる
・極板間:電荷は流れない → 磁場は?
→ マクスウェルの解決:極板間に変位電流がある
マクスウェルは、コンデンサの極板間でも電場の変化によって変位電流が流れ、これが磁場を作ると考えました。この考え方により、回路全体で電流の連続性が保たれるのです。
伝導電流との違い
変位電流と伝導電流(通常の電流)の違いを明確に理解することが重要です。
| 項目 | 伝導電流 | 変位電流 |
|---|---|---|
| 電荷の移動 | あり | なし |
| 発生場所 | 導体内 | 誘電体内(真空含む) |
| 原因 | 電場による電荷の移動 | 電場の時間変化 |
| 磁場の生成 | あり | あり |
| ジュール熱 | 発生する | 発生しない |
変位電流の式と求め方
続いては変位電流の式と求め方を確認していきます。
基本的な式
変位電流の大きさI_dは、電束密度の時間変化率に比例します。数式で表すと次のようになります。
【変位電流の式】
I_d = ε₀(dΦ_E/dt)
または I_d = ε₀A(dE/dt)
I_d:変位電流[A]
ε₀:真空の誘電率(約8.85×10⁻¹² F/m)
Φ_E:電場の束(電束)[V·m]
A:面積[m²]
E:電場の強さ[V/m]
dE/dt:電場の時間変化率[V/(m·s)]
真空中ではなく誘電体中の場合、真空の誘電率ε₀を誘電率ε = ε₀ε_rに置き換えます(ε_rは比誘電率)。
変位電流密度
変位電流を面積で割ったものを変位電流密度と呼びます。単位面積あたりの変位電流を表す量です。
【変位電流密度】
j_d = I_d/A = ε₀(dE/dt)
j_d:変位電流密度[A/m²]
変位電流密度は、電場の時間変化率に直接比例します。電場が急激に変化するほど、大きな変位電流密度が生じるのです。
コンデンサでの変位電流
平行板コンデンサを充電・放電する際、極板間に変位電流が流れます。コンデンサは変位電流を理解する最良の例でしょう。
コンデンサの電圧Vが時間変化すると、電場E = V/d(dは極板間距離)も変化します。このとき極板間に流れる変位電流は次のように表されます。
【コンデンサでの変位電流】
I_d = ε₀A(dE/dt) = ε₀A(d(V/d)/dt)
= (ε₀A/d)(dV/dt)
ここで C = ε₀A/d はコンデンサの静電容量なので
I_d = C(dV/dt)
この式は、コンデンサに流れ込む伝導電流 I = C(dV/dt) と全く同じ形をしています。つまり、極板間の変位電流は導線の伝導電流と等しいのです。
変位電流と磁場の関係
続いては変位電流と磁場の関係を確認していきます。
マクスウェル-アンペールの法則
変位電流を含めた完全な形のアンペールの法則をマクスウェル-アンペールの法則と呼びます。
【マクスウェル-アンペールの法則】
∮B·dl = μ₀(I + I_d)
または ∮B·dl = μ₀(I + ε₀(dΦ_E/dt))
B:磁束密度[T]
μ₀:真空の透磁率(4π×10⁻⁷ H/m)
I:伝導電流[A]
I_d:変位電流[A]
この法則により、伝導電流だけでなく変位電流も磁場を作ることが示されています。コンデンサの極板間のように電荷が流れない場所でも、磁場が存在するのです。
変位電流が作る磁場
変位電流が作る磁場は、伝導電流が作る磁場と全く同じ性質を持ちます。右手の法則に従い、電流の周りに円形の磁場が生じるのです。
電磁波の伝播
変位電流の概念により、電磁波の存在が理論的に説明できます。電場の変化が磁場を作り、磁場の変化が電場を作るという相互作用によって、電磁波が空間を伝わるのです。
マクスウェルは変位電流を含む方程式から、電磁波が光速で伝わることを計算しました。この予言は後にヘルツの実験で確認され、現代の無線通信技術の基礎となっています。
具体的な計算例
続いては具体的な計算例を確認していきます。
例題1:コンデンサの変位電流
平行板コンデンサを使った基本的な計算問題を解いてみましょう。
【例題1】静電容量C = 1.0×10⁻⁶ Fのコンデンサに、電圧V = 100sin(ωt) V(ω = 1000 rad/s)を印加した。変位電流の最大値を求めよ。
【解答】
変位電流:I_d = C(dV/dt)
dV/dt = 100ω cos(ωt) = 100×1000×cos(ωt)
最大値(cos = 1のとき)
I_d(max) = C × 100 × 1000
= 1.0×10⁻⁶ × 100 × 1000
= 0.1 A
答え:0.1アンペア
例題2:変位電流密度の計算
電場の時間変化から変位電流密度を求める問題です。
【例題2】真空中で電場がE = 1000sin(ωt) V/m(ω = 10⁹ rad/s)と変化している。変位電流密度の最大値を求めよ。(ε₀ = 8.85×10⁻¹² F/m)
【解答】
変位電流密度:j_d = ε₀(dE/dt)
dE/dt = 1000ω cos(ωt) = 1000×10⁹×cos(ωt)
最大値(cos = 1のとき)
j_d(max) = 8.85×10⁻¹² × 1000 × 10⁹
= 8.85×10⁻³ A/m²
答え:約8.85ミリアンペア毎平方メートル
例題3:コンデンサ回路での応用
実際の回路における変位電流の計算です。
【例題3】極板面積A = 0.01 m²、極板間距離d = 1 mm、比誘電率ε_r = 4のコンデンサに、dV/dt = 10⁶ V/sで電圧を印加した。変位電流を求めよ。
【解答】
静電容量:C = ε₀ε_r A/d
= 8.85×10⁻¹² × 4 × 0.01 / 0.001
= 3.54×10⁻¹⁰ F
変位電流:I_d = C(dV/dt)
= 3.54×10⁻¹⁰ × 10⁶
= 3.54×10⁻⁴ A
答え:約0.35ミリアンペア
変位電流の物理的意義
続いては変位電流の物理的意義を確認していきます。
電磁気学における重要性
変位電流の導入は、電磁気学を完成させる決定的な一歩でした。この概念により、以下の重要な帰結が得られたのです。
【変位電流がもたらした成果】
1. マクスウェル方程式の完成
2. 電磁波の理論的予言
3. 光が電磁波であることの理解
4. 電流の連続性の保証
5. 現代通信技術の理論的基礎
実用上の応用
変位電流の概念は、様々な技術で実用的に利用されています。
| 分野 | 応用例 | 変位電流の役割 |
|---|---|---|
| 通信 | アンテナ、電波伝送 | 電磁波の放射・受信 |
| 電子回路 | 高周波回路、フィルタ | 交流信号の伝達 |
| センサ | 静電容量式センサ | 微小変化の検出 |
| 電力工学 | 高圧送電線 | 絶縁体での損失評価 |
理論と実験の一致
マクスウェルが理論的に予言した電磁波は、ヘルツによって実験的に確認されました。これは変位電流の概念が正しかったことの証明です。
1887年、ハインリヒ・ヘルツは火花放電を用いた実験で、電磁波を人工的に発生させ検出することに成功しました。これは理論物理学の予言が実験で検証された歴史的な瞬間でした。
まとめ
変位電流とは、電場の時間変化によって生じる見かけ上の電流であり、I_d = ε₀A(dE/dt)で表されます。電荷の移動を伴わないにもかかわらず、伝導電流と同様に磁場を作る効果を持つのです。
マクスウェルが導入したこの概念により、アンペールの法則の矛盾が解決され、マクスウェル方程式が完成しました。コンデンサの極板間では I_d = C(dV/dt) の変位電流が流れ、回路全体で電流の連続性が保たれます。
変位電流の概念は電磁波の理論的予言をもたらし、現代の無線通信技術の基礎となっています。電磁気学における最も重要な発見の一つと言えるでしょう。