クーロン定数は、クーロンの法則に現れる比例定数であり、静電気力の強さを決定する基本的な物理定数です。
記号kで表され、その値は約9.0×10⁹ N・m²/C²であり、真空中での電荷間の相互作用の強さを特徴づけています。
この定数は、真空の誘電率ε₀を用いて k = 1/(4πε₀) と表すこともでき、電磁気学の理論体系において中心的な役割を果たすのです。
本記事では、クーロン定数の定義と値、単位の意味、真空の誘電率との関係、SI単位系での位置づけ、電気力定数としての性質などを詳しく解説いたしますので、ぜひ参考にしてくださいませ。
クーロン定数の定義と値
それではまずクーロン定数の基本について解説していきます。
クーロンの法則における比例定数としての役割を理解しましょう。
クーロンの法則における比例定数
クーロン定数kは、クーロンの法則 F = kq₁q₂/r² に現れる比例定数です。
2つの点電荷間に働く力の大きさを、電荷量と距離から計算するために必要な定数でしょう。
クーロンの法則
F = k q₁q₂ / r²
k:クーロン定数(比例定数)
q₁, q₂:電荷(C)
r:距離(m)
F:静電気力(N)
kの値が大きいほど、同じ電荷・距離でも強い力が働きます。
クーロン定数の数値
クーロン定数の値は、真空の誘電率から計算される値です。
厳密値と実用的な近似値があります。
クーロン定数kの値
厳密値:k = 8.9875517923… × 10⁹ N・m²/C²
近似値:k ≈ 9.0 × 10⁹ N・m²/C²
または k ≈ 8.99 × 10⁹ N・m²/C²
通常の計算では k = 9.0 × 10⁹ を使用
有効数字2桁での近似値が、高校物理や基礎的な計算でよく使われます。
別名と記号
クーロン定数は、文献によって様々な名称や記号で呼ばれます。
同じ物理定数を指していることを理解しましょう。
クーロン定数の別名
・クーロン定数(Coulomb constant)
・静電気力定数(electrostatic constant)
・電気力定数(electric force constant)
記号の表記
・k(最も一般的)
・k_e(electrostatic)
・k_C(Coulomb)
どの表記も同じ定数を指しています。
クーロン定数の値 9.0×10⁹ は非常に大きな数です。これは、1クーロンという電荷の単位が実用的なスケールでは非常に大きいことを反映しています。日常の静電気現象では、μC(マイクロクーロン)程度の電荷が扱われます。
クーロン定数の単位
続いてはクーロン定数の単位について確認していきましょう。
単位の意味を理解することで、物理的な解釈が深まります。
基本単位での表現
クーロン定数の単位は、N・m²/C²(ニュートン・平方メートル毎平方クーロン)です。
この単位は、クーロンの法則の公式から導かれるでしょう。
単位の導出
F = kq₁q₂/r² より
k = Fr²/(q₁q₂)
[k] = [F][r²]/[q²]
= N・m²/C²
力×距離²÷電荷²という次元を持ちます。
SI基本単位での展開
N・m²/C²をSI基本単位で展開すると、より基本的な単位の組み合わせになります。
ニュートンやクーロンを基本単位で表現しましょう。
SI基本単位での表現
N = kg・m/s²
C = A・s
したがって
N・m²/C² = (kg・m/s²)・m²/(A・s)²
= kg・m³/(A²・s⁴)
= kg・m³・A⁻²・s⁻⁴
質量、長さ、電流、時間の基本単位の組み合わせです。
他の物理量の単位との関係
クーロン定数の単位は、電位や電場の単位とも関連しています。
これらの関係を理解すると、電磁気学の体系が見えてきます。
関連する単位
N・m²/C² = J・m/C²(ジュール・メートル毎平方クーロン)
= V・m(ボルト・メートル)
電位の単位 V = J/C を使うと
k の単位は V・m とも表せる
これらの等価な表現は、異なる文脈で使われます。
真空の誘電率との関係
続いては真空の誘電率について確認していきましょう。
クーロン定数は、より基本的な定数である誘電率から定義されます。
真空の誘電率ε₀
真空の誘電率(permittivity of free space)は、真空中での電場の形成されやすさを表す基本定数です。
記号ε₀で表され、SI単位系の基礎定数の一つでしょう。
真空の誘電率
ε₀ = 8.8541878128… × 10⁻¹² F/m
≈ 8.854 × 10⁻¹² F/m
単位:F/m(ファラド毎メートル)
F(ファラド)は電気容量の単位
ファラドはC/V(クーロン毎ボルト)と等価です。
クーロン定数との関係式
クーロン定数kと真空の誘電率ε₀は、次の関係で結ばれています。
この式が、両者を結びつける基本的な定義です。
k = 1/(4πε₀)
または
ε₀ = 1/(4πk)
数値を代入すると
k = 1/(4π × 8.854×10⁻¹²)
= 1/(1.1126×10⁻¹⁰)
≈ 8.988×10⁹ N・m²/C²
4πという因子が関係式に含まれる理由は、後述します。
なぜ4πが現れるのか
クーロン定数の定義に4πが含まれるのは、球面の幾何学に由来します。
点電荷から放射状に広がる電場の対称性を反映しているのです。
4πの幾何学的意味
・半径rの球面の表面積 = 4πr²
・点電荷の電場は球対称
・ガウスの法則: ∮E・dS = Q/ε₀
・球面で E × 4πr² = Q/ε₀
・ここから E = Q/(4πε₀r²) = kQ/r²
4πは、3次元空間の球の立体角(4πステラジアン)を表しています。
SI単位系での定義と改定
続いてはSI単位系における位置づけについて確認していきましょう。
2019年のSI改定により、定義の方法が変更されました。
2019年以前の定義
2019年以前のSI単位系では、真空の透磁率μ₀が定義値でした。
そこから光速度cを使ってε₀を決定し、kを計算していたのです。
旧SI単位系(2019年以前)
・真空の透磁率 μ₀ = 4π×10⁻⁷ H/m(定義値)
・光速度 c = 299792458 m/s(定義値)
・関係式 c² = 1/(μ₀ε₀)
・ここからε₀を計算
・クーロン定数kは計算値
この体系では、ε₀とkには測定誤差が含まれていました。
2019年以降の新定義
2019年5月20日のSI改定により、電気素量eが厳密に定義されました。
これにより、クーロン定数も間接的に定義値となったのです。
新SI単位系(2019年以降)
・電気素量 e = 1.602176634×10⁻¹⁹ C(厳密値)
・光速度 c = 299792458 m/s(厳密値)
・これらの定義値からε₀とkが決まる
・ただし数値は実質的に変わらない
新定義でも、実用上の数値はほぼ同じです。
定義の変更の意義
SI改定の目的は、基礎物理定数に基づいた安定な単位系を作ることでした。
クーロン定数も、この新しい体系の一部となっています。
2019年のSI改定では、7つの基礎物理定数(c、h、e、k_B、N_A、ν_Cs、K_cd)を厳密値として定義し、そこから全ての単位を導出する体系になりました。これにより、単位の再現性と安定性が向上しています。
媒質中でのクーロン定数
続いては媒質中での変化について確認していきましょう。
真空以外の媒質中では、クーロン定数の値が変わります。
媒質の誘電率
真空以外の媒質中では、誘電率がε₀よりも大きくなります。
媒質の誘電率をεとすると、クーロン力が変化するのです。
媒質中のクーロンの法則
F = (1/4πε) × (q₁q₂/r²)
ε:媒質の誘電率
真空中のkに対応する値は
k_媒質 = 1/(4πε)
誘電率が大きいほど、力は弱くなります。
比誘電率による表現
媒質の誘電率は、真空の誘電率との比(比誘電率)で表すことが多いです。
比誘電率εᵣを使うと、式が簡潔になるでしょう。
比誘電率 εᵣ = ε/ε₀
媒質中のクーロンの法則
F = k/(εᵣ) × (q₁q₂/r²)
例
・真空:εᵣ = 1
・空気:εᵣ ≈ 1.0006(ほぼ真空と同じ)
・水:εᵣ ≈ 80
・ガラス:εᵣ ≈ 4~10
水中では、真空中の約1/80の力になります。
誘電率の物理的意味
誘電率は、媒質中で電場がどれだけ弱められるかを表します。
分子の分極によって、外部電場が遮蔽される効果です。
誘電率が大きい媒質の特徴
・電場が弱められる
・電荷間の力が弱くなる
・静電エネルギーが小さくなる
・分子が強く分極する
この性質は、コンデンサや絶縁体の設計に重要です。
| 物理定数 | 記号 | 値 | 単位 |
|---|---|---|---|
| クーロン定数 | k | 8.988×10⁹ | N・m²/C² |
| 真空の誘電率 | ε₀ | 8.854×10⁻¹² | F/m |
| 真空の透磁率 | μ₀ | 1.257×10⁻⁶ | H/m |
| 光速度 | c | 2.998×10⁸ | m/s |
| 電気素量 | e | 1.602×10⁻¹⁹ | C |
クーロン定数と関連定数の関係
続いては他の物理定数との関係について確認していきましょう。
クーロン定数は、電磁気学の様々な定数と結びついています。
光速度との関係
クーロン定数、真空の誘電率、真空の透磁率、光速度には重要な関係があります。
これらは電磁気学の基本方程式から導かれる関係です。
c² = 1/(μ₀ε₀)
c:光速度
μ₀:真空の透磁率
ε₀:真空の誘電率
k = 1/(4πε₀) を使うと
c² = 4πk/μ₀
光速度と電磁気の定数が結びついていることが分かります。
インピーダンスとの関係
真空の固有インピーダンスZ₀も、クーロン定数と関連しています。
電磁波の伝播に関わる重要な定数です。
真空の固有インピーダンス
Z₀ = √(μ₀/ε₀) ≈ 377 Ω
k = 1/(4πε₀) との関係
Z₀ = μ₀c = 4πk/c
これらの定数は、互いに密接に関連しています。
微細構造定数との関係
量子電磁力学では、微細構造定数αという無次元の定数が重要です。
クーロン定数もこの定数に含まれているのです。
微細構造定数
α = e²/(4πε₀ℏc) = ke²/(ℏc)
≈ 1/137.036
e:電気素量
ℏ:ディラック定数(プランク定数/2π)
c:光速度
この無次元定数は、電磁相互作用の強さを特徴づけます。
まとめ
クーロン定数kは、クーロンの法則 F = kq₁q₂/r² における比例定数であり、その値は約9.0×10⁹ N・m²/C²です。
この定数の単位N・m²/C²は、力×距離²÷電荷²という次元を持ち、SI基本単位では kg・m³・A⁻²・s⁻⁴ と表されます。
クーロン定数は真空の誘電率ε₀を用いて k = 1/(4πε₀) と定義され、4πという因子は球面の幾何学(表面積4πr²)に由来するでしょう。
2019年のSI改定により電気素量eが厳密値として定義され、クーロン定数も間接的に定義値となりましたが、実用上の数値は変わっていません。
媒質中では誘電率がε₀より大きくなるため、クーロン力は F = k/(εᵣ) × (q₁q₂/r²) と表され、比誘電率εᵣ倍だけ力が弱くなります。
クーロン定数は、光速度c、真空の透磁率μ₀、真空の固有インピーダンスZ₀、微細構造定数αなど、電磁気学の様々な基本定数と密接に関連しているのです。
この定数は静電気力定数または電気力定数とも呼ばれ、記号k、k_e、k_Cなどで表され、電磁気学の理論体系において中心的な役割を果たす基本定数でしょう。